故郷の町デリーから六人の元に電話がかかる。その電話がきっかけで27年前の少年時代の記憶がよみがえる六人。少年時代に体験した恐怖、そのとき彼らは「It」と対決し撃退した。そしていま再び「It」が現れる。倒す術は失われた記憶を取り戻すことにあった。
ホラーというジャンルを越えて影響を与える作家、スティーヴン・キングの最高傑作と讃えられる作品。
小尾芙佐 訳
出版社:文藝春秋(文春文庫)
物語は過去と現在がアトランダムに描かれており、それによって過去に何があったか、Itとは何なのかを浮かび上がらせるという手法をとっている。
その謎を煽るような描写のために非常にサクサクと読み進むことができる。僕はキング作品のよい読者ではないが、彼の語りのテクニックに導かれ、非常に楽しんで読むことができた。
またそういった構成上のテクニックだけでなく、情景が醸し出す空気をうまく描出している点が目を引く。
たとえば少年時代の描き方などはきわめてノスタルジックである。どの少年も家庭なり、自分の体型などにコンプレックスを抱えていて、決して健全な環境にいるとはいいがたい。
そんな中、友情を通して、自身のコンプレックスを乗り越えようとしている様に実に読み応えがあった。
それにItに象徴されるような子供時代の恐怖の描き方もおもしろいし、子供のときにもっていたはずの失われた感覚に、大人になった僕も思いを馳せずにはいられない。
それにホラーとしての要素も際立っている。中盤でItが六人の元を訪れて、脅すシーンなどはページを繰る手が止まらなかった。
だがそういったいい点を認めつつも、これほどの分量が本当に必要だったかは大いに疑問である。
キングは主人公クラスの七人の人生やそれ以外の脇役の人生も丹念に描き、忌まわしい街の歴史をも物語に盛り込むことで、圧倒的なスケールの作品に仕上げている。
もちろんそういった荘重さを出す以上、エピソードの多さはある程度仕方ないとは思う。
だがどうも語りが饒舌に過ぎるような気がしてならなかった。もう少しスパッと刈り込んでくれたら、印象もだいぶ違っていただろう。その長大さに幾分、印象が散漫になってしまったような気がする。
おもしろい作品である。だが、上記の理由により、味わいが弱くなってしまったのが残念だ。
評価:★★★(満点は★★★★★)
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